1-click Award

審査員インタビュー

須田和博
(動画です。URLを登録してください。)
1.最近気になっているWEBのキャンペーンやサイト、サービスを教えてください。

1つ目は、トリンプさんのオンラインショップについている「おねだり機能」っていうものです。欲しい下着を選ぶと、彼氏なり旦那さんなりパパなりが買ってくれるという機能を実装した通販サービスですね。これをあるとき人から聞いて、ぶったまげたんですよね。商品特性とシステムが、見事に結びついている。コミュニケーション設計そのもので商品の販促を行っている。しかもそれをWebサービスとして提供しているところがすごいな、と。そりゃあ売れるだろうなと思うサービスですね。しくみはシンプルで、eコマースサイトで商品を選んで「おねだりボタン」を押すと、彼のところにメールが届く。で、彼が決済するというしくみです。他のブランドでも、最近は同様のサービスを実装しているものもありますが、トリンプさんの場合は商品にも合っていて秀逸だと思います。

もう1つは、「shufoo!」というチラシサイトです。凸版印刷さんが運営していらっしゃる、日本中で近所のチラシがオンラインで見られるチラシのポータルサイトですね。これもたまたま知ったのですが、その時にスゴイなと思ったのは、主婦の皆さんが最も知りたい情報がとても使いやすく集まっていて、Google Map上で確認できるということです。物を買いたいと思っている人が、その情報をすぐに入手できる。しかも、きわめてユーザビリティが高い。広告の未来という感じがします。

この2つは、どちらもWebの「広告キャンペーン」ではなく、広告の役目も持っている「Webサービス」というべきものだと思いますね。

────どちらもたまたま知ったとおっしゃっていましたが、普段、どういうところから情報を仕入れているのでしょうか。

自分は、Webのヘビーユーザーでは決してありません。Webサイトをつぶさに見てまわるようなことは全然していなくて、仕事やプライベートで誰かと話しているときに知る情報がほとんどです。それで面白いな、と思ったら見に行く。Webディープな人間ではありません。むしろ知らないほう。ごくごく普通の人の感覚で、「それはみんなが動くんじゃないか?」と思えるものに興味があります。

────気をつけて情報を取りに行くというわけではないんですね。

あまり感度を尖らして、もっとも先端なものを知り続けるのは、広告全体を考える人間としてはあまりよくないんじゃないかなと思っています。普通の暮らしをしている感覚で「ああ、それいいね」と思えることが大切。ですから、掃除とか洗濯とか好きですし、そういうところをいい加減にしないで、ごくごく普通に暮らしています。


2.広告を作るときに気をつけていることを教えてください。

4つありまして、どれも、いつも忘れないようにしようと思っていることです。

1つ目は「メディアは進化する。人間は進化しない。」
確かにメディアテクノロジーは進化しているけど、でも人間そのものはほとんど進化していないわけです。たぶん、エチオピアあたりに人類が発生した5万年前と今とで、身体能力や心理構造という意味ではそれほど変わっていない。道具を使う気分は、江戸時代、室町時代、縄文時代ともあまり変わっていなくて、たとえばラクだな、楽しいなと感じるものが好きというのは不変なんですね。江戸時代にはみんな歌舞伎が好きだから歌舞伎で広告した。テレビが面白いと思われているならテレビで、Webが好きならWebでやる。それだけのことかなと思っています。だから、たとえばARが完璧に普及しても、使うほうは「簡単でいいな」というくらいだと思うんですね。そんなもんだ、という気分で広告を作りたいと思います。

2つ目は「ユーザーが一番偉い!」
普通、クリエイティブディレクターが偉いとかクライアントが偉いとか、CEOが偉いと思われていると思うんですが、その商品やサービスが選ばれるかどうかは、ユーザーが決めること。最高のCDが作ったからスゴイ広告だということは全然なくて、その広告が面白いとか、その商品が欲しいと思うユーザーがいてこその広告です。結局、決めるのは全部ユーザーですから、ユーザーが一番偉い。そのことを忘れずに、日々頑張ろうと思っています。

3つ目は、「全員シロートの時代」。
さっきも言いましたけど、メディアはどんどん進化していて、新しい領域が次々に出現し、誰もやったことのない仕事がどんどん増えています。去年やったことは今年もうできないし、おととしのことを去年やったらスベる。だから、やったことがあろうがなかろうが、やるしかないわけです。勘を働かせながら、やったことないけど真剣に頑張るぞという姿勢が大事。「オレはできるから」「プロだから分かっているから」というのも、「素人なんで教えてください」「わからないからできません」というのも、どちらもダメ。わからないからこそ自分でがんばってやるというのが、ここ5年くらいずっと続いている状況ですね。
わからないから僕も怖いんですけど、挑戦しないほうがかえって危険です。おっかなびっくりではあるけれど、最大限の緊張感を持ってやれば、やったことがなくてもなんとかなる。そういう風に進んでいかないといけない。シロートだけれども、でもシロートには安住せず、プロの座にあぐらをかくのでもない。シロートとしてのモラルを持ちつつ、果敢にシロートとして学習し続け、かつプロのスキルを持とうとし続ける人たちであるべきなんじゃないかな、と。そういうことを常々よく思います。

最後は、今年カンヌ広告祭に行って目の当たりにしたのですが、「デジタル、当たり前。その時、どうするか?」ということです。
今年のカンヌではっきりした傾向として、サイバーとサイバー以外のカテゴリーの際がきわめてアイマイになったのですね。PRライオンもプロモライオンもサイバー絡みだし、一方のサイバーライオンにはWebにとどまらないものが多かった。フィルムライオンのグランプリは、Web用の21:9の画角でフローズンモーメントを延々と体験する映像でしたし、カンヌで開かれていたさまざまなセミナーでも、twitterとかfacebookなどは「広告に使ってあたりまえです」といろいろな人が言っていた。
Webなしの生活って、普通の人も考えられなくなってきていますよね。広告コミュニケーションとしても、使って当然。その時にさて、何をするんだろうということを真剣に考えなくちゃいけないなと思っています。多くの広告会社は、まだそこまでは行っていないのですけど、でもそうなったら、デジタルの人もデジタル以外の人も、もう1回フラットに同じ土俵に立つことになるでしょう。その時に何でオリジナリティのあるソリューションを出すのか、お客さんを動かしていくのかを、真剣に考え直す必要があると実感しています。

────その時に活きるのは、やはりアイデアなのですか?

平べったい言い方になっちゃいますけど、1人がなんにでも関われるようになっている必要があるということと、その時にもやはり普通の人のように考えることが大事だと思います。もう、最先端テクノロジーがスゴイという感覚はなくなっていくと思うんですよ。次々にテクノロジーは出てくるでしょうけど、その新しさの驚きが人を動かす時代ではないと思います。


3. 1-click Awardで「こんな作品が見たい!」 というものは何でしょうか?

過去の入賞作品を拝見して、スゴイと思いました。ああいう「できたらいいね」と多くの人が思える企画がよい企画なんだと思いますね。たとえば、「RAIN MAKER」の雨を降らすというコンセプトは、江戸時代に行われたとしてもステキだなと思うんですよ。「トイレファイト!」などもそうですけど、人間の深いところに根ざしたアイデアがあると、そりゃあいいなあと膝をポーンと打ってしまいます。もちろん、最新技術を駆使する前提でかまわない。けど、考えの根っこは時代性に関係ない、人間本来の深い動機にふれていることが「ぐっと来る」秘訣だと思います。そういうものがたくさん見たいですね。昨年の作品もそういうものが多かったようですので、今年も期待しています。


4.では、最後に応募者へのメッセージをお願いします。

広告はけっこう厳しい局面にいることは確かです。しかし、実はこれほど可能性のある時代もかつてなかったなと思います。一方で八方ふさがりなんだけど、一方で何でもありの状況が来ていて、やりようによってはとっても可能性の広がっている業界だと思います。キツイこともたくさんあるんですが、考え方、アプローチの仕方次第で楽しくできるはず。ですので、若い皆さんも一緒に頑張りましょう。「そりゃあすげえ!」と感じられる作品を、ぜひ見せて欲しいと思います。

須田和博

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