立命館大学准教授が開発した作品

芸術をこんな方向でも活用する

大学で行われている研究発表は普段、あまり見かけることはないにしても内容によっては非常に興味深いときがある。そのことを開催終了後に知ると残念な気持ちになることもあるが、情報を仕入れるだけでもこまめに見ている必要があるのでかなり手間なのは否定できない。毎年発表している内容が異なっているため、その年に行われた研究はネットなどの情報で見た後、その後スポンサーなどの伝が出来て商品化すれば、世に出る事もあるがそこはここで議論するほどの問題ではないだろう。興味があるないにしろ、大学などの研究者達が日夜知られざる舞台裏で研究作業には、本来なら敬意を払わなければならないのかもしれない。

そんな中、ちょっと興味深い研究をしていたとある大学の准教授が発表したのは、この記事のテーマとなっているインタラクティブ・アートを応用した、芸術とはすこし縁遠い業界にも利用することが出来る可能性を提示した。その業界とは『福祉』であり、特に介護や子育てといったものにも応用できるという。研究内容を発表したのは、立命館大学映像学部で准教授を務めている『望月茂徳』氏で、彼が考え出したのは、ある仕掛けが施された赤い郵便箱だ。一見すると何処にでもある郵便箱のように見えるが、もちろんちょっとした仕掛けが施されているので、どのような機能が搭載されているのかを話していこう。


手紙を入れると、懐メロが流れてくる

この郵便箱に入り口にはセンサーが取り付けられており、手紙を入れると今でこそ聞かないにしても懐かしいメロディが流れるようになっている。郵便箱なので郵便に関係したものとなっているが、面白い仕掛けだ。単純に手紙が来た事を知らせるという意味でも便利だが、本来目的として考えられた開発経緯には『いかにしてお年寄りの気分を変える方法を編み出すか』、といったことに焦点を当てている。

まだまだ年若い人にとっては意味がない、人によっては少しやかましいと取られることもあるかもしれないが、足腰が不自由になればなるほど普段の行動だけで体力の消耗が激しい身体になると、移動するのも億劫になる。そうなると常に一定した場所にい続けなければならない、それがどれ程苦痛なのかはいうまでもない。だからこそ風景に色を加えるために散歩へと定期的に連れ出したりしなければならない、ただそれも介護を伴っていても最小限とはいえ体力を消費する。中には具合が悪くて移動する事が出来ない、といった状況にあるかもしれない。そんな時こそ看護師や介護士の人々が腕の見せ所なのだが、一重に解決できるわけではない。

そんな時、この開発した懐メロが流れる郵便箱の音を聞いて、どこか懐かしむようなそんな思いになってくれれば、自由に動くことが出来ない人にとってはこれ以上ないほどありがたいものだ。その歌をきっかけにして新しい交流を生み出す事が出来るかもしれない可能性があれば、試す価値は十分にある。

他にはこんなことも

望月氏が研究しているのはこうした郵便箱だけではない、面白い観点で研究していると思ったのが、赤ちゃんの視点がどのように動いているのかを調べるというのだ。被検体として利用したのは彼の実子である生後10ヶ月となる息子の視点がどのように動いているのかを調べてみたという。調べる方法として背中に小さなセンサーを取り付けて、部屋で遊ばせている状況でどのように動くかだ。

結果として、その視点の移動軌跡を線で表現して動きに連動して色を変えて見ると、驚くほどに芸術的な作品が出来上がったという。当たり前だが意図してやったなどということはまずない、ただ無作為に動いている赤ちゃんの行動の面白さを、このように客観的に見られるようになれば、親としては子育てにおいてもコミュニケーションの機会が増えるかもしれないという。また普段から接する機会が多い母親としては、子供が何を求めているのかを知るきっかけにもなるかもしれないといえば、興味が沸くという人も少なくないだろう。こんなところでインタラクティブ・アートの真髄を堪能することが出来るというのは、意外すぎる。


高度な技術を結集してこその賜物であることを忘れてはいけない

望月氏がその他にも非常に興味深い研究を当然のように行っているわけだが、これらを実現するためには卓越したプログラミング技術に加え、精密な画像処理やインターフェースなどを用いてこそようやく実現可能となっている。当然のように話してきたが、出来るまでに消費する労働力は恐らく通常のサラリーマン仕事とは比べ物にならないような頭の回転が求められることになる。ただこうした技術を集めた結果として生まれた作品がインタラクティブ・アートとして、その存在感を主張できるようになる。

決して簡単ではない、非常に綿密な作業を要することになるのだが、介護や子育てといった福祉については非常に肉体的にも、精神的にも苦労を伴う。している人もそうだが、されている人もそれは同様だ。特にされている人にしてみれば、してもらえなければ命の危険性さえ迫ってくることを考えると、時間に余裕など生まれるはずもない。ただ毎日そんな状況下で気を張り詰めて、息の詰まった生活をするよりかは、どこかで気分転換を兼ねた気晴らしをすることも重要であると望月氏は語っている。何より人生は面白くなければならないと語っているところを見るに、人としてそうした視点にも配慮することが出来るからこそ、このような作品を作り出すことが出来るのだろう。問題を解決することも大事だが、その解決のために必要なきっかけを見つけるためにもインタラクティブ・アートは、悩める福祉業界を救う手がかりなのかもしれない。